夢見る医者は オペ室に眠る

あれは最高のおっぱい

五番街のマリーへ

自分が悶々としている間にも、
女は夜の街に繰り出し、
知らぬ男と時を過ごしている。

かく言う自分だって、
自分のコミュニティの仲間たちと、
賑やかな生活を送っている。

お互いどう想っていようが、
世界は何も変わらない。

でも、自分の世界の一角に、
そっと置いておきたい人はいる。
出来れば自分も、相手の一角になっていたい。

五番街のマリーで良いのだ。

好きな人、いるの?

「好きな人いるの?」と聞かれ、
「結婚してるよ」と答えると、
「実は、私、知ってたよ」と言われた。

「私、あなたみたいな人と結婚したかった」
と言われた。

同じ台詞を、昔言われたことあった。
きっと誰に対しても言っているんだろう。
そんな事はわかっているのに、
自分の忘れかけていた感情に、溺れている。

タクシーに乗り込むと、
「いい匂いがする」
と言って、膝の上で寝てしまった。

女は、この一晩で、
数名の男からのラブコールを断っていた。

銀座の女

入り組んだ路地を進むと、
わずか10名ほどが座れる、
小さな鉄板焼の店舗が現れる。

カウンターの木製の椅子に腰掛け、
独り、一杯のビールを注文する。
隣の客のアワビが焼ける様子を眺めていると、
15分ほど遅れて、女が入店する。

真っ白の肌に、可憐な容姿。
頭からつま先まで静かに纏まっている。
4ヶ月前と、変わらない。

女は、自分を見つけると、
小さく手を挙げ、微笑んだ後、隣に腰掛けた。
一つ一つの仕草が、丁寧で、繊細だ。

ここ何年も、話せなくなっていた事に気付いた。
自分の本音を他人に伝える機会が無かった。
そういうものだと納得しようとしていた。

それが、この女は、するりするりと、
自分の本音を引っ張ってくる。

なんだか、夢を見ているようだった。
この感覚は、久しい。

プレゼント

右腕を差し出され、顔を近づけると
桃のオーデコロンが香った。
手のひらからは、微かなアールグレイが。
ハンドルを握る自分の前腕からは、シーソルト。

前夜にときめいたまま、
甘い香りに酔う。

思い出は、新宿

久しぶりに古い親友から電話が掛かってきた。

親友とサシ飲みしてから久しい。
外国人ばかりいる新宿のバーで、
最初は熱い話もしていたのに、
気づけばお互い周りの客と好き勝手に飲み始める。
ちょうど良く酒が回ったところで、
また二人、少しだけ将来の話なんてしたりする。
奴は、いつまでも冒険家で、羨ましい。
久しぶりの電話の内容も、
やはり新しい冒険の話だった。

それに比べて、自分は最近成長してないなぁ。

あの酒の味が、たまに恋しくなる。
いつの日も、思い出は新宿。

ととのう

長い手術だった。
帰りに、銭湯に寄った。
サウナに入って、水風呂を経由して、外気で休憩。

手足が少し痺れて、
体全体が宙に浮いている様な感覚になる。
その身体の中心で、自分の心臓が
トルントルンと踊っている。
感覚が研ぎ澄まされて、遠くの音までよく聞こえる。
思わず、口角が緩む。

しばらくして、感覚が元に戻ってきて、
静かに目を開けると、
夏の星空と満月が目に飛び込んだ。

うーん。幸せだ。

オールソール

せっかく仕立ててもらったのに、足に合わず、
もう履くのを諦めようかと思っていた革靴。
お店の方から、オールソールを提案された。

銀座の仕立て屋に行くと、
なんと直接、職人さんが出迎えてくれ、
自分の足を丁寧に計測して頂き、
やはり、少し小さかったようで、
自分にピッタリのサイズに作り直してもらった。

出来上がった革靴を履いて、
吸い付くようなぴったり感に笑み溢れた。
値は張ったけど、依頼して良かった。
スーツを着る職業じゃないので、
まだ靴を履く機会がない。
このご時世だけど、誰か結婚式でも挙げてくれ。