夢見る医者は オペ室に眠る

あれは最高のおっぱい

五番街のマリーへ

自分が悶々としている間にも、女は夜の街に繰り出し、知らぬ男と時を過ごしている。 かく言う自分だって、自分のコミュニティの仲間たちと、賑やかな生活を送っている。 お互いどう想っていようが、世界は何も変わらない。 でも、自分の世界の一角に、そっと…

好きな人、いるの?

「好きな人いるの?」と聞かれ、「結婚してるよ」と答えると、「実は、私、知ってたよ」と言われた。 「私、あなたみたいな人と結婚したかった」と言われた。 同じ台詞を、昔言われたことあった。きっと誰に対しても言っているんだろう。そんな事はわかって…

銀座の女

入り組んだ路地を進むと、わずか10名ほどが座れる、小さな鉄板焼の店舗が現れる。 カウンターの木製の椅子に腰掛け、独り、一杯のビールを注文する。隣の客のアワビが焼ける様子を眺めていると、15分ほど遅れて、女が入店する。 真っ白の肌に、可憐な容姿。…

プレゼント

右腕を差し出され、顔を近づけると桃のオーデコロンが香った。手のひらからは、微かなアールグレイが。ハンドルを握る自分の前腕からは、シーソルト。 前夜にときめいたまま、甘い香りに酔う。

思い出は、新宿

久しぶりに古い親友から電話が掛かってきた。 親友とサシ飲みしてから久しい。外国人ばかりいる新宿のバーで、最初は熱い話もしていたのに、気づけばお互い周りの客と好き勝手に飲み始める。ちょうど良く酒が回ったところで、また二人、少しだけ将来の話なん…

ととのう

長い手術だった。帰りに、銭湯に寄った。サウナに入って、水風呂を経由して、外気で休憩。 手足が少し痺れて、体全体が宙に浮いている様な感覚になる。その身体の中心で、自分の心臓がトルントルンと踊っている。感覚が研ぎ澄まされて、遠くの音までよく聞こ…

オールソール

せっかく仕立ててもらったのに、足に合わず、もう履くのを諦めようかと思っていた革靴。お店の方から、オールソールを提案された。 銀座の仕立て屋に行くと、なんと直接、職人さんが出迎えてくれ、自分の足を丁寧に計測して頂き、やはり、少し小さかったよう…

死に際

ここ数ヶ月、いくつか人の不幸が重なっていた。お世話になった若い上司が危篤になり、癌で死ぬって、こんなに悲惨なのかと震撼した。 電話をすると、泣きながら、最期の晩餐を作っていた。 何も出来ず、申し訳なく思った。最期に声を聞いてから11日後に永眠…

連絡先を知らない

少しだけ、寝た。慌ただしくなってしまった朝、シャワーで濡れた自分の髪を触られ、「びしょびしょですね」と笑われた。艶やかだなあ。 車で駅まで送って、最後にほっぺをつねってお別れした。 そういえば、彼女の連絡先を知らない。職場はしばらく離れ離れ…

艶やかは耳元で

薬剤師の後輩が遊びに来た。ずっと一緒に仕事をしてきて、綺麗な人だなとは思っていたけど初めてプライベートで会った。 散々、職場の話で盛り上がった後、ベランダで、ランプを焚きながら、最後の寝酒を飲んだ。日本酒の瓶のラベルが、ランプの光に照らされ…

外科志願者たち

外科に全く興味を持っていなかった研修医が、なんと2人も、外科に興味を持ち始めてくれた。こんなに嬉しいことは無い。 「心配なのは、俺、先生みたいに体力ないんです」と言われたのはさらに驚きだった。体力の無さがコンプレックスだったくらいなので。 し…

鞄磨き気分転換

朝起きて、窓から外を眺めてみたら、久しぶりに気持ちの良い晴天だった。桜は完全に散って、葉桜が眩しかった。 見下ろすと、道路は公園へ向かう家族連れで賑わっていた。マスクもしないでキャッキャ騒いでいる。緊急事態宣言が出てるのに、この呑気さよ。現…

答え合わせ

突然、心の距離を感じた時期があった。定期的に来るメッセージも、パタリと止まった。職場の飲み会にも一切来なくなった。理由を聞くのもみっともないので、あえてこちらも詮索はしなかったが、なんとなく、予想はついていた。 それでも、3ヶ月もすると、少…

静かな甘え

年上の女が、友人を連れて遊びに来た。初めて酔っ払った彼女を見た。床に寝転がった彼女は、静かに甘えてきた。何も語らず、ほとんど動かず、静かに握った指先だけ動かしていた。 女の友人と締めの薄いビールを飲んでいたら、とっくに終電が終わっていて、結…

昔話

かつての武勇伝ばかりを語る上司がいた。彼の武勇伝を聞きながら、目の前の薄毛で小太り、職場でもまるで人気がないその上司を、内心、ひどく哀れんでいた。 かく言う自分も、昔話ばかり書いている。今の生活に満足していないからなのか。いや、満足はしてい…

夕日の中を走る

4月に入って、少し立場が変わった。自分自身は何も変わっていないのに、少し仕事が増えた。くそぅ。 月に一度ほど行く埼玉の奥地にある外勤先には普段は電車で向かっていたが、今回は車で行った。交通量は少ない。田んぼに挟まれた車道を走っていたら、夕焼…

逃げ回るしか

友人が務める総合病院では、感染疑いのスタッフとの濃厚接触を理由に医療スタッフ数十名が出勤停止となった。自分が働く総合病院も、ついに医療スタッフからCOVID-19陽性患者が出た。病棟閉鎖、外来閉鎖、待機的手術中止も時間の問題か。あっという間に全国…

嫉妬だった

重い足取りで病棟に向かった。病棟は真っ暗なのに対し、ナースステーションだけが、白い蛍光灯に照らされ不気味に明るい空間を造っている。 夜中1時。ちょうど準夜勤と夜勤のナースが引き継ぎをしていて、少しだけ賑やかだった。 話しかけていたリーダーナー…

会話できる最後のチャンス

突然の心肺停止。慌てて心肺蘇生を開始したけど、pH 6.4, K 7.4。救命は厳しいだろうと思ってた。しかし予想に反し、見事心拍再開、しかも意識も戻った。こんな症例初めてだった。 主治医に引き継いだら、なんと抜管された。確かに呼吸状態は安定していたけ…

ちょっと勝った

他人のことを陰で責めている間は一時的に自分が偉くなった気になるので気持ちが良いだろうなぁとは思う。けど、とばっちりを受けて責められたこちらは、それを理解は出来ていても、しばらく心に凝りとして残る。 そんな心の葛藤を理解してくれる職場の上司や…

医者の落とし方 02

医者の落とし方。もしあなたが、心臓外科医を狙っているなら。 かなり難しい。多忙な外科系の中でも、超多忙。ほぼ家に帰らず、ずっと手術をしています。彼が医師になってから出会ったとしても、デートが出来ないのでまず落とせません。医師になる前からツバ…

そんな彼はそろそろ結婚

心臓血管外科に、同期が一人いる。最近、よく併診患者を持って、たまに二人で開腹したりするんだが、同期ってだけで、なんとも仕事が楽しい。なぜだかお互い敬語なんだけど、お互いが認め合ってる証拠なんでしょう。ちなみに、彼の方が給料が良い! なお、我…

贅沢コースで

早朝から大量出血で呼び出され、立て続けの大きな手術が終わり、そこから当直続き。久しぶりに少し疲れた。 去年取れなかった夏休みをそろそろ取ろうと思うのだが、COVID-19のせいで、飛行機には乗りづらい。東京のどこか良いホテルにでも泊まろうか。 予算…

バイザヤード

女の腕時計が目に入る。カルティエのタンクフランセーズだ。小さな時計だが、文字盤のダイヤが、個室の照明を浴びてチラチラ光る。反対の手首にはティファニーのブレスレットが巻かれている。大きな胸の谷間の上に、チラリと見えるダイヤもティファニーか。…

あの日、部屋で

数年前。秋の静かな夜。突然、電話がかかってきて、相手の声は泣いていた。長年のパートナーに裏切られたと。そうか、パートナーいたんだっけと、その時になって思い出す。 間接光だけの暗い部屋。はらりと服を脱ぐと、大きな胸を包んだ下着が現れる。ちょう…

パテドカンパーニュ

講演会頼まれて、夜通し準備してたのに、新型コロナのせいで中止になった。だいぶ時間を浪費してしまった。 パテドカンパーニュをテイクアウトし、召す。お供のクラフトビールがなくなると、次は赤ワインをあける。嗚呼、たまらん。

本音では誰も診たくない

新型コロナ(COVID-19)。現場は大混乱。何科がファーストタッチするかで、まず揉めた。「我々内科医だけが危険に晒されるのか」その訴えは、よく理解出来る。でも、手術の合間に肺炎なんか診たくないぜ…。 おそらく感染力に限って言えば、史上最強。どの施…

今日のクラシック

久しぶりに、良い緊急手術だった。夜8時。上司に助手に入ってもらう。腹を開けた瞬間、「間に合った!」と、上司と口を揃えてしまった。明日になったら、術式が変わってしまっていた。最近は、この治療は患者のためになっているのかと自問自答せざるを得ない…

誑かされた学生時代

カメラを向けると、その子も“照れ隠し”で、自分にカメラを向けた。自分が撮った写真を見返すと、買ったばかりの一眼レフを自分に向ける彼女が写っている。まだ使い方も良くわかっていない様子。 渋谷、無国籍通りの一角にある小さなレストラン。壁にはLautre…

自分の為なのです

バタバタと患者が死んでいった悪夢期間が一段落し、最近は、病棟も外来も落ち着いてきている。 「医者の生きがいは、患者からの感謝だ」なんて誰かが言ってるのを聞いて、そんなの綺麗事だろ、と思ってた。でも実際に、外来患者に「先生のお陰です」「しつこ…